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晶馬受中心に、掌小説にすらならない指先小説やネタを放置する場所。
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うめ
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女性
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どうしようもない場所から来た何者にもなれない存在。晶馬くんが幸せならいいな!とか言いながら他の人の手を借りて彼を泣かしたりボコったりしている。支部でもちょこちょこ書いてます。呟きは@umeeee02
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お久しぶりですお元気でしょうか皆様。
違うジャンルにどっぷり浸かっておりますが、未だ冠晶熱はございます。
先日な/ん/で/も/鑑/定/団を見ておりましたら秋田の銀線細工の簪が出ておりまして、一瞬で心奪われました。そして今日、その再放送があり、フォロワーさんとお話していて高ぶったので小話を書きました。
ただ、これは去年のをんさんと夏コミで販売させて頂いた『Shangri-La Endroll』の八尾比丘尼晶馬前提のお話になりますので、予めご了承ください。
とらさんでもまだ少し在庫有りますので是非ー!→『Shangri-La Endroll

それではどうぞ!


 晶馬はあまり物を欲しがらない。それはその身体ゆえに、真に欲している物が「死」だからかもしれない。だが、それを与えてやることは出来ない。俺はあいつに生き続けてほしいからだ。そして俺もまた、あいつを喰って永遠に生き続ける。それが俺の夢であり、未来だ。
 あいつは自身を卑下しすぎている。必ず「自分なんか」という言葉を使うが、それは大きな間違いだ。俺はこれまでにたくさんの美しいと評される女を見てきた。時には男もいたが、それらは評判通り、確かに美しかった。だが、晶馬に出会って俺の価値観は変わった。あいつと比べれば奴らなど月とすっぽん。作られた美しさなど形無しだ。晶馬ほど美しい生き物を、俺は知らない。
 その美しい生き物をいかに美しく魅せるか。俺の趣味と言ってもいいだろう。金銀宝石、ありとあらゆるものを使って着飾らせる。着物もそうだ。京都から取り寄せたものを中心に着せている。晶馬はそれを着るのではなく羽織るだけだ。中に一枚、白の絹生地で仕立てられた寝間着を着、その上に与えた着物を羽織る。晶馬に似合いそうな様々な柄を取り寄せているが、中でも晶馬は霞模様が気に入っているようで、あまり華美ではないものが好きなようだ。だが俺としては椿のものを着てほしいから、俺が来たら着替えるよう言ってある。
 さて、今日も何か晶馬を飾るものはないかと調べていると、ひとつこれまでに見たことがないものが見つかった。
 嗚呼、これはきっと晶馬に似合う。俺はすぐさま抱えの商人に文を出し、それを取り寄せた。時間はかかるが、あれのためならば何日でも待ってやる。そう思わせるほど、美しかったのだ。
「晶馬」
 錠を外し、部屋の中に入ると、今日は以前から来ると言っていたせいか、椿をあしらった着物を羽織った晶馬がいた。今まで横にしていた体を起こし、言い付け通りに格子を開ける。
「今日は一体、何の御用でしょうか」
 そう問う晶馬を引き寄せ、絨毯の上に座らせる。それから額に口付けた後、懐から桐の箱を差し出した。
「これを渡しに来た」
「これは……また、何か」
「ああ。お前に似合うと思ってな。取り寄せた」
 すると、晶馬は一つ溜息を零す。恐らく心中では「また無駄遣いを」と思っているのだろう。俺にとって晶馬に与える物に金を注ぎ込むことは無駄ではないのだが、何度言ったところでこいつが理解するわけがない。商売はちゃんとうまくやっている。出費も昔と比べればきちんと控えているのだ。
 床に投げ出された手を持ち上げ、その手に箱を押し付ける。そうしないと晶馬は受け取ってはくれない。
「開けてみろ」
 一体どんな顔を見せてくれるだろうか。いつものように、瞼を閉じて見せかけの礼を言うのだろうか。それとも、いらないと首を振られるだろうか。もしこれが晶馬でなく違う者がしたとすれば、その場で別れを告げるだろう。だが、こいつは別だ。晶馬ならばどんなことを言われても、それが晶馬の一つの感情であり表情であるなら構わない。また一つ、「晶馬」を手にしたのだと思えるのだ。
 すんなりと開けられた箱の蓋。現れたのは一本の簪だ。
「これ、は」
 目をぱちりと瞬かせ、簪を取り出す。細部までじっくりと観察しているようだ。こんなことは初めてだと驚きながらも、晶馬の問いに答えた。
「秋田の伝統工芸品だ。銀線二本を縒り合せ、一本の線にしたものを加工するらしい」
「そう、なんだ……」
 確かめるように、恐る恐るといった感じで簪に指を滑らせる。つまみ簪のようだが、全てが銀線で作られているため、菊の花もまた銀線によって作られていた。そこから垂れる細工は銀ではなく、小さな翡翠の石が連なっている。これは俺が頼んだのだ。最初は珊瑚を連ねる予定だったのだが、ここはやはり晶馬の瞳の色に似た翡翠がいいと。
 そしてそれは、俺と同じ瞳の色でもある。
「……綺麗」
 ぼそりと呟かれた感嘆の声に、今度は俺が目を瞬いた。これまでいくつもの品を晶馬に与えてきたが、こうしてじっくりと見ては上に掲げて微笑んでいる姿は初めて見たのだ。それほど、気に入ったのだろう。
「挿してくれるか?」
 俺の願いに、晶馬はこくりと頷いた。簪を箱に一旦戻し、髪を少し結う。晶馬の髪は短いが、少しでも結ってしまえばそこに挿すことが出来るのだ。そうして少し編まれたその場所を簪が通っていく。
 晶馬が振り向くと同時、じゃら、と垂れた翡翠が音を立てた。
 その、美しさと言ったら。
「……嗚呼、美しいな」
 俺の言葉にふわりと柔らかな笑顔が咲き、たまらず晶馬を抱き寄せた。
「でも、挿してしまうと僕が見れなくなっちゃうんだね」
 そう、耳元で囁かれた言葉に、俺は抱きしめる力を強くした。
望みを滅多に言わない晶馬の願いだ。しかもそれが、俺が与えた簪についてだというなら叶えてやらなければなるまい。
「分かった。何とかしてやる」

 その後、晶馬はずっと、その簪を着物に挿している。

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