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晶馬受中心に、掌小説にすらならない指先小説やネタを放置する場所。
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うめ
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性別:
女性
自己紹介:
どうしようもない場所から来た何者にもなれない存在。晶馬くんが幸せならいいな!とか言いながら他の人の手を借りて彼を泣かしたりボコったりしている。支部でもちょこちょこ書いてます。呟きは@umeeee02
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前回の未来世の続きです。詳細はそちらをご覧ください。
カテゴリを新しく未来世作りました。色物カテゴリまた増えた。
今回陽毬は出てきてません。

 赤ん坊の頃に孤児院の前に置き去りにされていたのだと、院長は言った。よくドラマやアニメでありそうなネタだが、実際に晶馬はそれをされたらしい。かけられていた前掛けに「しょうま」と書かれていたので、それが名前なのだと分かったそうだ。
 院長達は「しょうま」を「翔馬」として育てていたのだが、大きくなるに連れて自分の名前に首を傾げだしたと言う。聞いてみると、違和感があるのだとか。それじゃあどんな字だと思う、とペンと紙を差し出すと、「しょうま」は迷わず「晶馬」と書いたそうだ。それ以来、彼は晶馬として生きている。
 それを聞いたとき、俺と陽毬は内心かなり舞い上がっていた。てっきり全ての記憶を失っていたと思っていたのだ。だが、残っていた。普通「しょうま」にこの漢字は当てはめない。やはり、この子どもは晶馬なのだ。俺たちはすぐに院長に言った。この子を引き取らせて欲しいと。流石に心のまま、返して欲しいとは言えなかった。
 晶馬は唖然としていた。話によると、晶馬は就職できる年になるまでこの孤児院に住み、下の子たちの面倒を見ながら生きていくつもりだったらしい。この孤児院にいる子ども達の中で、晶馬は二番目に大きい。一番上の青年がそうだったから、自分もそうなりたいと思っていたそうだ。それが、俺たちが来たことで潰されたわけだ。
 もちろん晶馬は嫌がっていた。先ほどあったばかりの大人たちに引き取られるなんて、恐ろしいに決まっている。
 だが、それでも。それでも晶馬を俺たちのところに連れて行きたかった。
 以前暮らしていたあの小さな家ではない、雨漏りの心配もないしっかりとした一軒家だ。俺と陽毬の給料によって建てられたそこには、一部屋余分に作っておいた部屋がある。無論、晶馬のためだ。そしてそこが、今の晶馬の部屋だ。
 ノックをしても返事はない。一応「開けるぞ」と断ってから入ると、今日も晶馬は窓の外を見ていた。

「晶馬」
「………はい」
「敬語はやめろって、言っただろ」

 懐いては、いない。当然だ、孤児院で泣く晶馬を無理矢理ここに連れてきたんだから。正式な手続きは踏んだものの、それを見た院長が戸惑い、後々何か言ってきたようだが夏芽家に任せた。
 初日、晶馬は叫んだ。

「どうしてぼくなの!ほかにもっといい子はいた、かわいい子は、えらい子もいた!えをかくのがじょうずな子や、おりょうりができる子だって、いっぱい、いっぱいいたのに!!」

 小さな拳で腹を何度も殴られ、涙を拭おうと伸ばした手は払われた。陽毬は女だからか手をあげることはしなかったが、睨まれていた。
 分かっていたことだ。覚悟はしていた。
 名前を呼んでくれなくていい。もちろん、親と思わなくていい。ただ、側にいればいい。近くにいてくれるだけでいい。
 その位、俺たちは晶馬に餓えていたのだ。
 晶馬は俺たちを拒絶した。食事も一緒に摂ることを拒み、一人部屋で食べる。食べるだけマシだ、と陽毬は笑う。

「晶馬」

 もう一度呼ぶと、ようやく晶馬は振り返った。目元は赤く腫れあがり、とても痛々しい。

「なに」
「お前じゃなきゃ駄目だったんだ」
「どうして」
「それは……」

 理由を言ったところで分かるはずがない。口ごもると、晶馬は視線を再び窓の外へ戻してしまった。
 晶馬は理由を知りたがっている。どうして自分が選ばれたのか、自分を選んだのか。
 まるで昔に戻ったようだ。見られていないことを良いことに、俺は小さく笑った。
 俺は晶馬を選び、晶馬は陽毬を選び、そうして出来たのが高倉家だった。俺と晶馬は双子の兄として妹の陽毬を愛し、陽毬は妹として俺たちを慕った。しかし、そうして作られていた高倉家は壊れ、消えた。俺も陽毬も望んでいない結末を迎えて。
 そして今、俺と陽毬が晶馬を選び、新たな高倉家が誕生した。夏芽でも池辺でもない、高倉家が。

「なぁ、晶馬」

 俺は晶馬に歩み寄る。床の軋む音で気付いたのだろう。晶馬は振り返り、側に膝をついた俺を見上げた。相変わらず大きな瞳だ。今にも零れ落ちそうな、綺麗な瞳。その中に俺が映っている。
 俺だけが、映っている。
 そっと、晶馬を抱き寄せた。もぞりと動いて嫌がる素振りをみせたが力を込めることでそれを制する。陽毬もやった手だが、こいつはこれに弱いらしい。そういえば昔からそうだったな、と過去を振り返る。

「晶馬、お前が怒る気持ちも分かる。俺たちを恨む気持ちも分かる」
「なら!」
「でも、俺たちはお前を離すことは出来ないんだ」
「どうして!ぼくとあなたたちはついこの間、会ったばかりなのに!」
「そう、お前は思うだろうな。でも、違うんだ」
「わけが、わからない!」

 分からなくていい。分からなくていいんだ。あの時晶馬が願った俺たちの幸せは叶わなかった。
 お前がいない。それだけで俺たちの世界は灰色になる。幸せなんて初めから在り得ないのだと、誰もが嘲笑っているかのようにさえ感じられた。晶馬が命をかけて願ったものを、俺たちは叶えられなかったのだ。
 そのことを知らなくていい。そうでなくては悲しむだろうから。
 もうあんな笑顔は見たくないんだ。

「晶馬、お前はさっきどうして自分じゃなくちゃ駄目だったのかって聞いたな」
「……聞いた」
「それは、お前がお前だからだ。お前が晶馬だから、俺たちはお前を選んだ」
「…………ぼくが、ぼくだから?」
「そうだ。俺たちはお前を愛してる。心から、愛してるんだ」
「…………あい」

 「あいってなに」と晶馬は続けた。それに俺はこう答える。

「俺たちがお前に向ける感情全てのことだ」

 喜びも悲しみも苦しみも切なさも、全てひっくるめた感情がソレだ。ただひたすらに、お前のことを想っている。

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