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晶馬受中心に、掌小説にすらならない指先小説やネタを放置する場所。
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うめ
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女性
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どうしようもない場所から来た何者にもなれない存在。晶馬くんが幸せならいいな!とか言いながら他の人の手を借りて彼を泣かしたりボコったりしている。支部でもちょこちょこ書いてます。呟きは@umeeee02
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ぶらこん!の続編です。設定は前のものをご覧ください。
随分前になりますが、ネタを提供してくださったをんさんとゆのたさんに捧げます。

 まさかこんなことになるなんて、誰が予想しただろう。
 目の前で兄貴が死んでいる。実際に死んでいるわけではない。心が死んでいる、と言った方がいいだろうか。某少年漫画で有名な真っ白になった発言があるが、それに近いだろう。こうなったのは本当に些細なことが原因だった。
 兄貴は私立校で僕は県立高に通っている。兄貴はブレザーを、僕は学ランを着て朝食を食べるのだ。血を分けた双子であっても頭の出来は違うもので、彼はとても優秀だ。性格にはかなり支障があるが、口を開かなければその端正な顔立ちと身に纏う制服からそれは窺えるだろう。
 進路を決める際、僕と同じ学校じゃないと嫌だと駄々をこねていたのだが、学校と家族と手を組みギリギリまで僕の進路は兄貴と同じだと捏造していた。学校側からすれば一人でも有名校に行ってほしかったのだろう。喜んで手を貸してくれた。家族は、まぁ、面白そうだからという理由だ。
 事実が発覚した時は勿論怒り心頭で、家具を壊そうとするわ担任に殴りかかろうとするわで大変だったが、陽毬と二人で何とかそれを宥めた。あの時のことは思い出すのも嫌なので割愛する。
 さて、話を戻そう。
 今日は体育があった。いつも通り制服を脱いでジャージに着替えようとしたのだが、その時背後から近付いてきた友達に驚かされボタンの糸がちぎれてしまったのだ。金色のボタンがコロコロと床を転がっていく。友達は笑いながら「ごめんごめん」と謝ってきたし、僕もこれ位のことを気にするような性格ではないので笑って許した。たった一つ取れただけだ。何を怒る必要がある。ボタンを拾い、帰ってから付け直そうとポケットの中に突っ込んで体育の授業を受け、担任に事情を説明してそのまま下校時間まで過ごした。誰か裁縫道具を持っていればよかったのだが、生憎女子の誰も持っていなかったのだ。てっきり、誰か持っていると思っていたのに。彼女達が持つポーチの中には何が入っているのだろうか。不思議に思う。
 そしてそのまま帰宅し、既に帰っていた兄貴が僕をいつも通り出迎えたと思ったら目を見開き、体を硬直させた。格好は僕に抱きつこうとしたままだ。

「えっ!?何、どうしたの?」
「……晶馬の……晶馬の……」
「うん?」
「第二ボタンが、ない!」

 叫んだ瞬間、兄貴は倒れこんだ。
 そして今に至る。

「あのね、だから事故だってば」
「…………」
「その証拠にちゃんとボタンあるだろ、ほら」

 ポケットからそれを取り出し、リビングのソファで真っ白になったままの兄貴に差し出す。テーブルの上に置くと、その音で気付いたのか視線をこちらに向けた。しかし、すぐに床に戻してしまった。

「それがお前のかなんて分からないだろ……相手のかもしれない」
「相手!?」

 一体この兄は何を考えているのだろうか。推測すらしたくないが、まさかあれか。僕が誰かと第二ボタンを交換したと思っているのか。
 男と。
 寒気がしてぶるりと震える。

「ちょっと!変な誤解するなよ!」
「だから俺は同じ高校へ進学したかったんだ!中学の時までは俺が壁となり盾となり防虫剤になっていたからよかったものを、目を離すとすぐこれだ!これだから男って奴は!!」
「僕も兄貴も男!!」
「晶馬は晶馬という性別だ!」
「何わけわかんないこと言ってんの!?」

 もうこうなった兄貴は僕にはどうしようもない。手に負えない。

「母さーん!」

 リビングから出て、二階にいるだろう母さんを召喚する。すると「はーい」と何とも平和そうな声が聞こえ、数秒後、母さんが階段を下りてきた。

「どうしたの?」
「兄貴が」

 全ての事情を話すと、母さんは「何だそんなこと」とにっこりと笑ってリビングの中に入っていく。

「冠葉」
「母さん!晶馬が!」
「大丈夫よ、落ち着きなさい」

 兄貴の隣に座り、テーブルの上に置いたままだったボタンを見つけると、それを手に取り彼の前に差し出した。
 流石の兄貴も母さんの前では平静を取り戻すらしい。先ほどまでの荒れ具合が嘘のようだ。

「よく見なさい。ここの高っていう文字のところに傷があるでしょう」
「あるけど……それが何?」
「これ、何があってもいいようにって、私がつけておいたのよ」
「え」
「え!?」

 そんなの初耳だ。まさかと思って今着ている制服のボタン全てをチェックした。腕のも予備のも全て。
 母さんの言うとおり、全てに傷がついている。今の今まで全く気がつかなかったくらいの小さな傷だ。しかも御丁寧なことに、全て同じ位置につけられている。
 僕の様子でそれが伝わったらしい。きょとんとしていた兄貴の顔がパアッと明るくなり、テーブルを飛び越え僕に抱きついてきた。

「晶馬ああああああ!ごめんな疑って!!」

 何だろう、嬉しくない。折角誤解が解けたというのに。
 それにしても、と兄貴に頬を摺り寄せられながら、「仲良しねぇ」と頬に手を当て笑っている母さんを見る。
 改めて思う。
 流石母親。息子のことをよく分かっている。

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