忍者ブログ
晶馬受中心に、掌小説にすらならない指先小説やネタを放置する場所。
プロフィール
HN:
うめ
HP:
性別:
女性
自己紹介:
どうしようもない場所から来た何者にもなれない存在。晶馬くんが幸せならいいな!とか言いながら他の人の手を借りて彼を泣かしたりボコったりしている。支部でもちょこちょこ書いてます。呟きは@umeeee02
カウンター
バーコード
アクセス解析
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 晴天が続く。先月までは嵐が度々訪れ、様々なものを攫っていったというのに、今はぴたりと止んでいる。
 この国の王が登極したのだ。
 麒麟を傍らに置き、玉座に腰をかけた新たな王が放った言葉を、宮中にいる全ての者が忘れないだろう。

「麒麟は王のものだという。晶馬はこの国の麒麟だ。だからこの国の王になった」

 その瞬間、控えていた麒麟が拳を振り上げ王の頭に的中させながら「言うなって言っただろ!」と真っ赤な顔で悲鳴をあげた。





要するに王の冠葉が麒麟の晶馬すきすきーな、ついったで散々騒いでいた十二国記パロです。お付き合いしてくださったをんさんに捧げます。続きは下より

 僕が眠りから覚めると、目の前にはいつも通り、衣の合わせが乱れ、顕となった胸板があった。それを静かに戻し、顔を上げその者の顔を見つめる。
 高倉冠葉。僕が蓬莱より連れてきた、我が国の君主である。僕の晶馬という字は彼からもらった。
 何でも、冠葉と言う名前は蓬莱で有名な宮沢賢治という者が書いた『銀河鉄道の夜』の中に登場するカムパネルラから来ているらしい。そしてその親友の名がジョバンニと言って、僕の字はそこから来ているという。実際に読んだことはないから、一度は読んでみたいものだ。そう言うと、冠葉は少し困った顔をして「いずれな」と頬を撫でる。そのため、その「いずれ」が訪れるまでお預けだ。
 麒麟は頭(ツノ)を撫でられることが不快だ。だから冠葉は頬を代わりにしたらしい。彼が僕の頬を撫でるのは、頭を撫でることと同じだ。むにむにと若干力を加えながら撫でられる時もあるし、まるで玉に触れるかのように優しく触れてくる時もある。どちらが好きかと言われれば、僕は迷わず「どちらも」と答える自信があった。どちらにしても、彼が僕を愛でてくれているのが分かるからだ。
 昨日は遅くまで溜めていた書類を片していたようだ。ぐっすりと眠っている。頭の中で今日の予定を探すが、本日は休養日だ。それしかない。ならばこのまま寝かしておいてあげようと、そっと体を起こそうとしたのだが。

「……駄目だ。抜けない」

 元々麒麟は力が弱い。しかも冠葉は剣術が得意で、骨の周りにはしなやかな筋肉がある。僕のふにふにとした腕とは大違いだ。以前、それを気にして鍛えようとしたことがあるが、彼にすぐ止められてしまった。しかも命令とまで言われてしまったから、もう二度と出来ないだろう。どうやら冠葉は僕のこの体つきが酷く気に入っているらしく、柔らかくて温かいといつもどこでも抱きついてくるし頬をすり寄せてくる。男としてこれはどうなのだろうと、以前延台輔にお尋ねしたところ「まあ、あいつにとってお前が癒やしみたいだからいいんじゃね」という返答を頂いた。景台輔に至っては「そういうことは私には……」と非常に申し訳なさそうに仰ったものだから、寧ろこちらが申し訳なかったですとお詫びしたのだが、隣で景王が笑っていらしたのは何故だろう。
 ともかく、これでは共に眠り続けるしかない。
 姿勢を元に戻し、彼の腕にそのまますっぽりと収まる。そして衣擦れの音を立てぬようゆっくりと彼に近付けば、無意識だろう、抱きしめる力が強まった。
 何故僕が冠葉と共に床に着いているのかと言えば、これが彼の出した勅令の一つなのだ。
 麒麟は王と寝食を共にする。風呂も然り。
 恐らくこの勅令はこれまでもこの先も、彼以外は出さないと思われる。
 初めに聞いた時は耳を疑い、もう一度聞き返してしまったほどだ。しかし彼は同じ言葉をもう一度、今度は目をしっかりと合わせながら言うものだから、ああ本気なのだと頷いた。
 頷く以外、麒麟の僕に何が出来ようか。
 それ以来、例え喧嘩をした後でも寝食も入浴も共にしている。
 目が冴えてしまって眠れない。しかし、起き上がれない以上暇を潰すには冠葉しかいないわけで。
 ふわり、と彼の髪を撫でた。よく膝枕をした時に梳くことがあるが、この体勢ではしたことがない。これが初体験と言うやつなのだろうか。紅の髪は、見た目以上に柔らかいのだ。顔をうずめるととても穏やかな気持ちになる。彼はよく僕の首元に唇を寄せ、太陽の匂いがすると言って口付けるけれど、それと似たようなものなのだろうか。そうだったら嬉しい。
 そう思うと、なんだかとても気分が高揚してきて、冠葉に思いっきり抱きつきたい衝動に駆られた。しかし、そうすれば彼は起きてしまうだろう。それだけは避けなければ。

 だから、代わりに。

 先ほど直したばかりの衣を静かに開き、そっと口付けた。
 それから、耳を彼の心臓の上に押し付ける。人の鼓動の音は眠気をさそうらしいと、冠葉に教えてもらったのだ。
 だんだんと、うとうとし始めた僕の思考回路はやがて暗闇と化し、瞳が閉じる。
 だから、そんな僕を見て笑みを零していた冠葉に気付くことが出来なかった。

拍手

PR
Comment
name
title
color
e-mail
URL
comment
pass
[38] [37] [36] [35] [34] [33] [32] [31] [30] [29] [28]
忍者ブログ [PR]