晶馬受中心に、掌小説にすらならない指先小説やネタを放置する場所。
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うめ
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女性
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どうしようもない場所から来た何者にもなれない存在。晶馬くんが幸せならいいな!とか言いながら他の人の手を借りて彼を泣かしたりボコったりしている。支部でもちょこちょこ書いてます。呟きは@umeeee02
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せっかくなので一気に更新。
卵はこれで最後です。
進むに連れてかなり微妙で面倒な小説だったと思いますが、ありがとうございました!
ミステリの要素も甘さの欠片もないですね。
卵はこれで最後です。
進むに連れてかなり微妙で面倒な小説だったと思いますが、ありがとうございました!
ミステリの要素も甘さの欠片もないですね。
男は動きを止めて、首を傾げた。
「双子?」
「そう。一卵性なんですけど、顔も性格も全然似ていないんです。たまにいるみたいですよ、そういうの」
男は「ふぅん」とつまらなそうに相槌を打った。そして、ジャケットのチャックをあげようとする。しかし、金具が少し歪んでいるらしく、カチャカチャと必死に指を動かしていた。意識はそちらに集中している。
「弟なんですよ、あいつ」
俺は顎を引き、マフラーで口元を隠した。男は鬱陶しそうに「そう」と強い口調で言った。カンッカンッと小さい音が響く。それでも金具は噛み合わない。
「分からないんですか?」
男をじっと見つめながら問いかけた。「あのさ」舌打ちが聞こえた。そして男はようやく俺を見た。
「何?さっきから」
先ほどとは全然違った態度をとる。瞳は鋭くなり、俺を貫く。お前にもう用は無い。それがはっきりと態度に出ていた。
男は何も分かっていないのだ。それがとても面白かった。感情を必死に押し殺し、俺は言う。
「元は一つだったものが二つになるということは、つまり、半分になるということです。でも、それは必ずしも真っ二つじゃない。もしかしたら、どちらか片方に何かが多く移動するかもしれない」
男は首を傾げた。そして金具へ視線を戻し、またカチャカチャと音を立てる。
右ポケットに手を突っ込む。携帯に当たった。今度は音を立てても構わない。ストラップを引っ張って、携帯を取り出した。画面を見ると、メールが数通、不在着信が五件。どれも全て晶馬からだった。その名前が並んでいるだけで、この携帯は温もりを帯びる。ざっと全てをチェックし、新規メール作成画面を開いて打ち出す。
今から帰る。
送信ボタンを押し、無事にメールが届いたことを確認して携帯を閉じた。そして、男を見る。
男は呆然と、俺を見ていた。
口が半開きになっている。金具から手は外され、前は開いたままだ。
「おい、待ってくれよ」
男の声は震えていた。先ほどまでの態度が嘘だったかのようだ。
「もし、そうだとしたら、まさか」
男はゆっくりとした動作で首を振る。その顔は笑っていた。そこに喜びは見えない。あるとすれば、恐怖だ。晶馬は本当に怖い時、声が出なくなると言っていたが、男の場合は違うらしい。人によって異なるようだ。思わず、マフラーの下で笑みがこぼれた。「嘘だ」呟く男に近付いて腰を折る。マフラーで遮った分、シトラス系の香りがとても心地よく感じられた。
「もし、そうだとしたら」
男は大きく肩を揺らした。そしてゆっくりと、ぎこちなく、俺を見た。もう何も言うなと言葉にすればよかったのに、男は何も言わなかった。いや、例え男が拒もうとしたところで、それは言えなかっただろう。男が声を発する前に、言ってしまえばいいのだから。
「あんたはどちらを愛するんだ?」
すると、男はゆっくりとした動作でテーブルの上に肘をついた。そして、頭を抱いた。何かから守るように、強く抱いていた。「嘘だ、嘘だ」と小さな呻き似た声が聞こえる。それを聞いてから、俺はその場を離れた。わざと靴の音を響かせて歩く。しかし、何も言われることなくレジの前まで来た。店員に会計のことについて話し、外に出る。
それでも、男の声がかかることはなかった。
店を出た瞬間、冷たい空気が頬に当たった。自然と、肩が上がって前かがみになる。
「兄貴!」
名前を呼ばれてそちらを見ると、晶馬がいた。この間と同じコートに、俺とは色違いの赤いマフラーをしている。
晶馬は俺の前まで駆け寄ってくると「大丈夫だった?」と下から顔を覗かせた。顔が赤く、息が荒い。白い息がたくさん浮かんでいる。それを見て、力が抜けていくのを感じた。
「ああ。思った通りの奴だったよ。もう会いにこないだろ」
正確には、来れない、だが。
すると、ぷくっと、晶馬の頬が餅のように膨らんだ。
「そうじゃなくて!」
両手を腰に当てて、きっと俺を睨んだ。
「とっても心配したんだからな!メールは最初返って来たきりで、その後のメールも電話も無視するし!」
タンッと晶馬の右足が地を踏んだ。「悪かった」と慌てて謝ると、「もう、別にいいよ」と諦めたように溜息を吐かれた。
「無事だったんだし、いいよ」
そう言って、晶馬は俺の腕に自分の腕を絡める。数秒間、ぎゅうっと強く抱かれ、静かに離れていった。
俺たちは歩き出した。夕日を背にして帰路に着く。前方に伸びる二つの影の間には数センチの空間が空いている。それに苛立ち、晶馬の腕を引いた。すると、ぴったりと重なって一つになる。
「なっ、何するんだよ!」
「いいだろ別に。兄弟なんだから」
「そりゃ、そうだけど」
ぶつぶつと文句を言いながらも、それきり反抗を止めた晶馬の肩に腕を乗せる。これなら周囲も煩くないだろう。
男のこれからを考えた。きっと、男はこれからしばらくの間、あの姿勢から抜け出せない。店員がそれに気付いて声をかける。「大丈夫ですか?」それに我に返って、急いでそこを出ようとするだろう。財布を取り出し、レジで二人分のお金を払う。その時、またあのことを考える。ぼうっとする。それの繰り返しだ。男は一体何時間で家に帰れるのだろう。途中、何人にぶつかるのだろう。そう考えて笑った。それに気付いた晶馬が、姿勢はそのままに聞いてきた。
「なあ、兄貴。あの人と何を話したんだよ?」
俺は答えた。
「ただ教えてやっただけだ。所詮、神は気まぐれなんだってことをな」
本当は一つだった。それが偶然にも二つに別れ、二人になった。
晶馬は俺に無いものを全て持っている。そして、俺は晶馬に無いものを持っている。
だからこそ、俺は晶馬を愛している。もう一人の俺である晶馬を、心から愛し、敬い、執着している。
俺は晶馬以外の誰のものでもなく、晶馬は俺以外の誰のものでもない。
その言葉に、晶馬は「よく分かんない」と言った。けれどいいのだ。
その姿のまま、俺の隣で生きていれば、それで。
俺たちは二人で一つなのだから。
あとがきというかネタバレというか言い訳みたいな
美和の生まれ変わりとして産まれてくるはずだった人間は、母親の胎内で二つに分かれて容姿と記憶を分けてしまった。つまり、晶馬は容姿を、冠葉は記憶を受け継いだということです。最初男は山下か渡瀬で行こうかなとか思いましたが止めました。モブで。ここまで読んでくださってありがとうございました!オチがこんなんで申し訳ないです……
「双子?」
「そう。一卵性なんですけど、顔も性格も全然似ていないんです。たまにいるみたいですよ、そういうの」
男は「ふぅん」とつまらなそうに相槌を打った。そして、ジャケットのチャックをあげようとする。しかし、金具が少し歪んでいるらしく、カチャカチャと必死に指を動かしていた。意識はそちらに集中している。
「弟なんですよ、あいつ」
俺は顎を引き、マフラーで口元を隠した。男は鬱陶しそうに「そう」と強い口調で言った。カンッカンッと小さい音が響く。それでも金具は噛み合わない。
「分からないんですか?」
男をじっと見つめながら問いかけた。「あのさ」舌打ちが聞こえた。そして男はようやく俺を見た。
「何?さっきから」
先ほどとは全然違った態度をとる。瞳は鋭くなり、俺を貫く。お前にもう用は無い。それがはっきりと態度に出ていた。
男は何も分かっていないのだ。それがとても面白かった。感情を必死に押し殺し、俺は言う。
「元は一つだったものが二つになるということは、つまり、半分になるということです。でも、それは必ずしも真っ二つじゃない。もしかしたら、どちらか片方に何かが多く移動するかもしれない」
男は首を傾げた。そして金具へ視線を戻し、またカチャカチャと音を立てる。
右ポケットに手を突っ込む。携帯に当たった。今度は音を立てても構わない。ストラップを引っ張って、携帯を取り出した。画面を見ると、メールが数通、不在着信が五件。どれも全て晶馬からだった。その名前が並んでいるだけで、この携帯は温もりを帯びる。ざっと全てをチェックし、新規メール作成画面を開いて打ち出す。
今から帰る。
送信ボタンを押し、無事にメールが届いたことを確認して携帯を閉じた。そして、男を見る。
男は呆然と、俺を見ていた。
口が半開きになっている。金具から手は外され、前は開いたままだ。
「おい、待ってくれよ」
男の声は震えていた。先ほどまでの態度が嘘だったかのようだ。
「もし、そうだとしたら、まさか」
男はゆっくりとした動作で首を振る。その顔は笑っていた。そこに喜びは見えない。あるとすれば、恐怖だ。晶馬は本当に怖い時、声が出なくなると言っていたが、男の場合は違うらしい。人によって異なるようだ。思わず、マフラーの下で笑みがこぼれた。「嘘だ」呟く男に近付いて腰を折る。マフラーで遮った分、シトラス系の香りがとても心地よく感じられた。
「もし、そうだとしたら」
男は大きく肩を揺らした。そしてゆっくりと、ぎこちなく、俺を見た。もう何も言うなと言葉にすればよかったのに、男は何も言わなかった。いや、例え男が拒もうとしたところで、それは言えなかっただろう。男が声を発する前に、言ってしまえばいいのだから。
「あんたはどちらを愛するんだ?」
すると、男はゆっくりとした動作でテーブルの上に肘をついた。そして、頭を抱いた。何かから守るように、強く抱いていた。「嘘だ、嘘だ」と小さな呻き似た声が聞こえる。それを聞いてから、俺はその場を離れた。わざと靴の音を響かせて歩く。しかし、何も言われることなくレジの前まで来た。店員に会計のことについて話し、外に出る。
それでも、男の声がかかることはなかった。
店を出た瞬間、冷たい空気が頬に当たった。自然と、肩が上がって前かがみになる。
「兄貴!」
名前を呼ばれてそちらを見ると、晶馬がいた。この間と同じコートに、俺とは色違いの赤いマフラーをしている。
晶馬は俺の前まで駆け寄ってくると「大丈夫だった?」と下から顔を覗かせた。顔が赤く、息が荒い。白い息がたくさん浮かんでいる。それを見て、力が抜けていくのを感じた。
「ああ。思った通りの奴だったよ。もう会いにこないだろ」
正確には、来れない、だが。
すると、ぷくっと、晶馬の頬が餅のように膨らんだ。
「そうじゃなくて!」
両手を腰に当てて、きっと俺を睨んだ。
「とっても心配したんだからな!メールは最初返って来たきりで、その後のメールも電話も無視するし!」
タンッと晶馬の右足が地を踏んだ。「悪かった」と慌てて謝ると、「もう、別にいいよ」と諦めたように溜息を吐かれた。
「無事だったんだし、いいよ」
そう言って、晶馬は俺の腕に自分の腕を絡める。数秒間、ぎゅうっと強く抱かれ、静かに離れていった。
俺たちは歩き出した。夕日を背にして帰路に着く。前方に伸びる二つの影の間には数センチの空間が空いている。それに苛立ち、晶馬の腕を引いた。すると、ぴったりと重なって一つになる。
「なっ、何するんだよ!」
「いいだろ別に。兄弟なんだから」
「そりゃ、そうだけど」
ぶつぶつと文句を言いながらも、それきり反抗を止めた晶馬の肩に腕を乗せる。これなら周囲も煩くないだろう。
男のこれからを考えた。きっと、男はこれからしばらくの間、あの姿勢から抜け出せない。店員がそれに気付いて声をかける。「大丈夫ですか?」それに我に返って、急いでそこを出ようとするだろう。財布を取り出し、レジで二人分のお金を払う。その時、またあのことを考える。ぼうっとする。それの繰り返しだ。男は一体何時間で家に帰れるのだろう。途中、何人にぶつかるのだろう。そう考えて笑った。それに気付いた晶馬が、姿勢はそのままに聞いてきた。
「なあ、兄貴。あの人と何を話したんだよ?」
俺は答えた。
「ただ教えてやっただけだ。所詮、神は気まぐれなんだってことをな」
本当は一つだった。それが偶然にも二つに別れ、二人になった。
晶馬は俺に無いものを全て持っている。そして、俺は晶馬に無いものを持っている。
だからこそ、俺は晶馬を愛している。もう一人の俺である晶馬を、心から愛し、敬い、執着している。
俺は晶馬以外の誰のものでもなく、晶馬は俺以外の誰のものでもない。
その言葉に、晶馬は「よく分かんない」と言った。けれどいいのだ。
その姿のまま、俺の隣で生きていれば、それで。
俺たちは二人で一つなのだから。
あとがきというかネタバレというか言い訳みたいな
美和の生まれ変わりとして産まれてくるはずだった人間は、母親の胎内で二つに分かれて容姿と記憶を分けてしまった。つまり、晶馬は容姿を、冠葉は記憶を受け継いだということです。最初男は山下か渡瀬で行こうかなとか思いましたが止めました。モブで。ここまで読んでくださってありがとうございました!オチがこんなんで申し訳ないです……
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