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晶馬受中心に、掌小説にすらならない指先小説やネタを放置する場所。
プロフィール
HN:
うめ
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性別:
女性
自己紹介:
どうしようもない場所から来た何者にもなれない存在。晶馬くんが幸せならいいな!とか言いながら他の人の手を借りて彼を泣かしたりボコったりしている。支部でもちょこちょこ書いてます。呟きは@umeeee02
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一次リメイク品。冠晶です。なんちゃってミステリー。
パラレルです。珍しく冠葉視点。書きにくいったらありゃしないですが頑張ってます。書き方も晶馬とは少し違かったりするかもですね。まだ続くよ。

 俺には晶馬という弟がいる。不思議なことに、あいつは家の誰にも似ていない。先祖の誰かに似たのだろう。晶馬の容姿が自分達とはかけはなれていることに気付いた時、両親はそう思って特に怪しんだりはしなかった。しかし周りが、特に父方の祖父がうるさかった。誰の子どもだと毎日のようにお袋を問い詰め、離婚しろと親父に迫った。それで両親は仕方なくDNA検査をし、晶馬がきちんと二人の子どもであることを証明した。それ以来、俺達家族と父方の祖父とは疎遠になっている。唯一続いているのは年賀状のやり取りくらいだ。いずれ会うとしたら、祖父か祖母が死んだ時だろう。泣くか泣かないかは別の話として。
 
 晶馬には百合が合う。恐らく、絵画教室において、聖母マリアの象徴として描かれるのが百合だと学んだからだ。弟が男であると分かっているが、そう思わずにはいられない。
 大きな瞳は俺と同じ色を持ちながらも透き通っており、睫は何もせずとも天を向いている。女が羨ましげに晶馬を見ているのを何度も見てきた。そしてその度に「お前の方が綺麗だ」と囁きながら心中ではお前では無理だと嘲笑う。あいつらと晶馬では月とすっぽんだ。晶馬に言えば眉を吊り上げて怒鳴るだろうが。
 誰も汚したことの無いような、深い海の色の髪。俺の髪とは正反対だが、そんなことはどうでもいい。あいつが俺の弟である。それが全てだ。そんなあいつが「冠葉」と言って目を細めるのが好きだ。笑っているのが、何よりも。



 晶馬の部屋は俺の部屋の隣にある。まだ幼かったときは一つの部屋を二人で使っていた。その名残で、俺の部屋の壁のあちこちには落描きがある。鉛筆やクレヨンのものは何とか消せたが、油性ペンで描かれたものだけは消すことが出来なかった。それを別室にあった本棚で隠したお陰で、俺は自然と本を読むようになっていた。空っぽの本棚が埋まっていく度、自分が賢くなっていく。幼い頃はそんな優越感に浸っていた。今では次の本がどうすれば納まるのか考えることに必死で、それどころではない。
 その日もそんなことを考えていた。古本屋で衝動買いした四冊の本を読み終え、本と棚を交互に睨んだ。横にすればぎりぎりで二冊は入るが、あとの二冊が入らない。新しい本棚を買うべきなのかもしれない。一人で頷き、室内を見回した。あまり日の当たらないところがいい。部屋の隅の方にある箪笥はそれほど大きくはないが、だからと言って一人では運べる大きさではない。仕方が無い。親父に手伝ってもらおう。
 晶馬の手を借りるという選択肢は無い。あいつの手を傷めることはなるべくしたくないからだ。親父の次の休みはいつだろうか。家族全員のスケジュールを熟知しているお袋に聞きに行こうと、ドアノブに手をかけた時だった。
 ダンダンと激しい音が聞こえてきた。
 階段を上る音だ。それから数秒と経たずして、ぐんとノブが勝手に下がる。咄嗟に手を引き、一歩退く。するとそのまま扉が勢いよく開いて、晶馬が現れた。友達と遊んでくると言って、昼に出かけた時と同じ服装だ。そのままバイトへ行って、今帰ってきたのだろう。ほんのりと甘い香りがした。晶馬は駅前の花屋で働いている。
 片手はノブにかけられたまま、片腕がだらんと垂れている。晶馬は俯いたままだ。俺達は身長差がさほど無いため、顔が見えない。
 とりあえずノックの件について文句を言おうとして、止めた。ゆっくりと上げられた晶馬の顔。その瞳から、何かがすーっと頬を伝って顎へ向かう。思わず目を見開いた。それはしばらく顎で止まっていたが、やがて重力に逆らえずに床に落ちた。青色のカーペットが群青色になっていく。顔を上げ、晶馬はじっと、俺を見つめている。

「どうした」

 近付いて、そっと肩に手を置いた。すると、それが合図だったかのように、晶馬の顔の全体がぐしゃっと歪んだ。唇は横に伸び、丸かった瞳は細くなった。その後すぐに腕が伸びてきて、顎が肩の上に乗り、腕は背中へ回ってセーターを掴む。甘い匂いが一層強くなった。ぴくりぴくりと小刻みに動く背中を、拘束されなかった片手で二度叩く。「どうしたんだよ」もう一度聞くと、晶馬は小さい声で言った。

「助けて……怖いんだ、兄貴」

 俺は溜息をこぼしながら頭を撫で、きつく身体を抱きしめる。こうなる前に早く言えばいいものを、とは言わなかった。



 泣き止んだ晶馬を置いて階段を下りる。玄関を見ると、靴が乱雑に脱ぎ捨てられていた。それを片してからキッチンに向かう。丁度、お袋が夕飯の支度をするところだった。倉庫からココアの粉を取り出して差し出す。

「レンジでいいから、俺と晶馬の分」
「もう。いい加減自分でやりなさい」

 そう言いながらも、お袋は俺の手から粉を受け取った。
 お袋は何も聞いてこなかった。しばらくして、二つのマグカップを受け取る。階段を上っていく最中「よろしくね」と声をかけられた。それに適当に返事をして、部屋に戻る。
 部屋に入ると、晶馬は足を床に投げ出す形で俺のベッドに座っていた。渡したタオルで涙は拭いたようだ。目元は赤くなっていて、酷く痛々しい。机の上にココアを置く。

「コート、脱げよ」

 そう言うと、ゆっくりとした動作でコートを脱ぎ始めた。それを受け取って、クローゼットから取り出したハンガーにかけ、カーテンのレールに引っ掛ける。いつもなら「レールが壊れる」と文句を言うはずだが、今日はそれがない。
 湯気が立つココアを一つ差し出した。タツノオトシゴが描かれたマグカップの方だ。晶馬はそれを受け取って、ふーふーと息を吹きかける。俺は近くにあった椅子を引き寄せ、腰掛けた。ラッコが描かれた方のマグカップに口つける。温かくて甘い。自分で注文してなんだが、俺はあまりココアが好きではない。晶馬が好きなだけだ。コーヒーにしてもらえばよかったかと、心中で舌打ちする。喉を通って甘いものが体内へ流れていく。晶馬はまだ、息を吹きかけていた。

「で、何があった」

 そう尋ねると、晶馬は視線をココアから俺に移した。「実は」と続けられた話の内容は、次のようなことだった。
 ある日のバイトの帰り道でのこと。いつも通り、音楽を聴きながら帰っていると、電柱に背中を預ける一人の男がいた。誰かを待っているのだろう。そう思った晶馬は、男を無視して前を通り過ぎようとした。その時、何か声をかけられたような気がしたが、音楽を聴いていたせいで気のせいだと思ったらしい。だから、いきなり横から腕が現れた時にはとても驚いたという。それはその男の腕だった。男は晶馬の腕を強く掴み、引っ張った。その時ぽろりとイヤホンが外れて、声が聞こえた。男は「ようやく会えたのに、どうして無視するんだ」と眉を吊り上げ晶馬を揺すった。しかし、晶馬はその男を知らない。もしかしたら今までに花を買ってくれた内の一人かもしれないが、全てを覚えているわけじゃない。覚えているのはクレーマーと常連客のみである。晶馬は震えながら「誰」と尋ねた。

「誰なんですか」

 思った以上に小さく掠れた声で、人は本当の恐怖に陥った時、声というものが出てこなくなることを初めて知ったという。男ははっとした様子で晶馬から手を離した。一歩一歩、男は後退した。信じられない。そんな顔で。ぼんやりと自分を見つめる男を他所に、晶馬は逃げ出した。外れたままのイヤホンが、時々太ももに当たって邪魔だったが、巻き取る時間すら惜しかったのだ。とにかく走った。あんなに走ったのは小学校の時のマラソン大会以来だった、と晶馬は言う。それからしばらくして止まり、振り返る。しん、とした住宅街が広がっていた。いつもと何も変わっていない光景に、安堵した。
 それが、今から三ヶ月前のことだ。

「それっきりだと思ってたんだ」

 晶馬はようやくココアを啜った。俺のマグカップの中にはもう何も残っていない。空っぽになったそれを机の上に置いた。

「あれ以来帰る道も変えたし、なるべく一人にならないようにしてた。でも、一週間経たないうちに、今度はバイト先に来るようになって、それからずっと、つきまとわれてて」

 すん、と鼻を啜る音がした。ティッシュの箱を取って、晶馬に投げる。それから、彼のマグカップを受け取った。「ありがとう」そこから一枚取って、鼻をかんだ。それだけでは足りなかったようで、もう一枚取り出していた。かみ終わって手がどいた後、晶馬の鼻は赤くなっていた。白い肌に赤は、やけに目立つ。

「もう嫌だ、我慢の限界だよ。これって、警察に通報した方がいいのかな」

 ぎゅっと、拳が膝の上で作られた。爪が掌に食い込んでいないか心配だ。
 確かに晶馬の言うとおり、警察に通報した方がいいかもしれない。だが、男が男にストーカーじみたことをされているなんて、言いたくないだろう。晶馬にこれ以上、こんな顔をさせたくない。

「なあ、その男、何か言ったりしてこないのか?どこで会ったとか」
「うん、何も。でも、その人よく言うんだ。覚えていないのかって」
「覚えていないのか?」

 その言葉に眉を顰めた。脳内でその言葉が何度も繰り返される。こういうのを確か、リフレインと言ったか。何て騒々しい。
 僅かに眉を顰めた俺に、晶馬は気付かない。

「うん。それと、思い出せって」
「思い出せ、か」

 足を組んで、腕も組む。背もたれに全体重をかけて、天井を見上げた。真っ白い天井に、蛍光灯。眩しくて目を細める。瞼を閉じて、少ししたら開く。それを何度か繰り返した。

「分からないし、知らないんだ……思い出せって、何をだろう」

 「怖いんだ」と続けられ、ぐっと背もたれから離れて晶馬を見た。ふるふると髪の毛が揺れている。俯く彼の顔は歪んでいるだろう。ズボンにぽたぽたと水滴が落ちているのが見えた。
 唐突に、扉の向こうから良い匂いがしてきた。今晩はカレーらしい。壁時計を見ると、晶馬が部屋に来てからもう三十分は経っていた。針はそろそろ、親父が帰ってくる数字をさす。

「分かった」

 俺がそう言うと、晶馬は勢いよく顔を上げてぱちくりと目を瞬いた。濡れた頬に髪の毛がべったりとついている。手を伸ばしてそれを取ってやった。そして袖で涙を拭いてやる。

「俺に任せろ」
「……兄貴」

 「いいの?」と言わんばかりに晶馬が首を傾げた。濡れた瞳は人工の光を大いに反射して、輝いている。

「ああ、任せとけ」

 そう言って、頭を撫でた。ふわふわと羊の毛のように温かい。同じシャンプーを使っているのにこうも違う。きっと髪質の違いだけではないだろう。

「ただし、条件がある。安心しろ、何も難しいことじゃない。それさえやれば、後は俺に任せればいい」

 そう言ってようやく、晶馬は笑顔になった。白く長い指が俺の手を掴み、撫でる。
 「うん」と、小さく頷いた。

「そろそろ夕飯の時間だな。行くぞ」

 ぽん、ともう片方の手で軽く頭を叩き、頬から手を離す。名残惜しいが仕方ない。

「この話は飯の後だ。とりあえず部屋に帰って着替えてこい」

 レールからハンガーを取って、それごと差し出す。「分かった」晶馬はそれを受け取ると、ぱたぱたと駆けて部屋を出て行った。あいつの着替えは遅い。一足先にリビングへ行こうと、マグカップを持ち上げた。片方にはまだ半分くらいのココアが残っている。もったいない。仕方なく、なんとか飲み干した。

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