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晶馬受中心に、掌小説にすらならない指先小説やネタを放置する場所。
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うめ
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どうしようもない場所から来た何者にもなれない存在。晶馬くんが幸せならいいな!とか言いながら他の人の手を借りて彼を泣かしたりボコったりしている。支部でもちょこちょこ書いてます。呟きは@umeeee02
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前のぶらこん!の続編です。
格好いい冠葉はいません。その名の通り、ぶらこんの冠葉がいます。しすこんでもありますが、冠晶推しなのでぶらこんが前面に出ています。御注意を。
ネタを提供してくださった、そして本日お誕生日のゆのたさんに捧げます。ありがとうございました!


 ばさっという音がして振り向けば、兄貴がリビングの扉を開けたまま、僕を見て立ち尽くしていた。先ほどの音は兄貴がカバンを落とした音らしい。予想以上にあのカバンの中には物が入っているようだ。そのことに感動しながら「おかえり」と言えば、兄貴ははっとしたように駆け寄ってきた。そして鼻がくっつきそうなくらい近付いたと思えば、そっと、僕の右手を持ち上げる。

「こ、こここここここの指は!?」
「ああ、体育の時にね、ちょっと」
「ちょっと!?ちょっとでこんなに!?」
「いや、トスがね」

 単純な話だ。体育のバレーボールで、トスをしようとしたら誤って指を真っ直ぐにしてしまったらしく、突き指をしてしまったのだ。最初はこの位平気だと、鈍い痛みを我慢していたのだが、真っ赤だったものが紫色に変色しているのを見た友達がタイムを出した。強制的に保健室に送還され、保険医から湿布と包帯を頂いたのである。包帯はただの固定具みたいなものだ。ただ少々巻きすぎで骨折のようになってしまってはいるが。
 だから大丈夫なのだと兄貴に言うと、彼は何も言わずゆっくりと立ち上がり、のそのそと先ほど落とした自分のカバンを目指して歩き出す。きっと安心してカバンを拾いに行ったのだろう。そう思って、やっぱり巻きすぎだよな自分の指を見ていると、キチキチキチと何やら変な音がしたのでそちらを見た。すると、そこには。

「……今からお前んとこのバレーボール潰してくるわ」

 と、筆箱から取り出したらしいカッターを携え、扉から出て行こうとする兄貴の姿があった。
 急いで兄貴の下へ行き、後ろから抱きつき歩みを止めさせる。だが、力は完全に兄貴の方が上だ。フローリングのせいもあって、ずるずると引っ張られてしまう。

「ちょ、兄貴!止まれって!何言ってんだよ!」
「お前を傷つけるものは壊す。それだけだ」
「いやいや!ボールは悪くない、僕の不注意なんだから!だから止まれって、ば冠葉!」
「晶馬の可愛い指をよくも……」
「僕の声聞こえてねえええええ!」

 普段は名前で呼べば少しは大人しくなるはずだ。だが、今回はそれがない。
 兄貴は本気で、僕の学校のバレーボールを全て八つ裂きにする気のようだ。
 絶対に止めなくては。
 ぎゅっと、兄貴を更に強く抱きしめ、踏ん張る。しかしずるずると引き摺られる。こんなことになるなら、帰ってきた時に靴下なんて脱いでしまえばよかった。そうすれば少しは違っただろう。
 そうしている間に、騒ぎを聞きつけたのか、陽毬が階段から降りてきた。天の助けだ、と彼女を期待の目で見つめたのだが、何を勘違いしたのか。

「楽しそうだね!」

 にこにこ笑みを零しながら「お母さんココアー」と言いながらリビングに行ってしまった。どうやらこの騒ぎは単なる戯れだと思ったらしい。我が家のお姫様はこんな戯れに参加するより、ココアをご所望のようだ。
 とりあえずそれは置いておいて。

「あーにーきー!」
「安心しろ、お前は俺が護ってやる」
「だからって何でそうなるんだよ!やろうとしてることはただの破壊魔じゃないか!」
「それでお前の平穏を取り戻せるなら俺は……」
「そんな大げさな!」

 別にずっとこのままというわけではない。腫れが引くまでの話だ。確かにそれまでは生活に支障を来たすだろうが、自分の不注意でそうなったのだ、仕方が無い。そう言っているのだが、兄貴は決して頷かない。
 思い返せば小学生の時、図工の時間、彫刻刀で指を切って血を流したことがあった。それほど深い傷ではなかったので絆創膏で済ませようとしたのだが、それを見た友達が先生を呼んでくれた。すると、隣のクラスから物凄い音がして、数秒後、「しょーま!」と兄貴が駆けつけてきたのだ。あれにはクラス一同驚いた。しかし、彼がそんな目を気にするはずがなく、ずんずんと歩み寄ってきて僕の腕を掴むと、すぐに教室を飛び出した。引っ張られるがままに連れて行かれた先は保健室。どうやらクラスメイトの「せんせー、しょーまくんが手をけがしましたー」の声が聞こえたらしい。そして軽傷の僕を保健室へ送り届けた後、兄貴はすぐにそこから消えてしまった。予想通り、絆創膏を一枚貰い、一人教室へ戻ると、教室の中は騒然としていた。それもそのはず。
 兄貴が僕の彫刻刀をベランダから投げ落とそうとしていたのである。
 「しょーまをきずつけるやつはいらん!」そう叫んでいた兄貴を止めたのは僕の担任と騒ぎを聞きつけてやってきた兄の担任だ。男二人がかりで必死に押さえ込み、宥めた後はそりゃあもう、とても疲れた様子だった。呼ばれた両親は両親で「すみません、弟思いで」と言っていたが、その位で済む問題じゃないと思ったのは僕だけではないはずだ。
 とにかく、今回のこれもあの時と似ている。あの時先生は何と言って彼を宥めていたのか。
 思い出せ、思い出せ、思い出せ。
 ――――思い、出した。

「かっ、冠葉!」
「何だよ。止めても無駄だぞ」
「けっ……!」
「け?」
「怪我をした、僕の、側にいてくれないの!?」

 恥ずかしい。かなり恥ずかしい。
 そう、あの時先生たちは「そんなに大切な弟をひとりぼっちにしちゃ駄目だろ!こんなことしてる場合じゃないだろ!」と言ったのだ。どんな止め方だと思ったが、効果は抜群だった。動きを止め、彫刻刀から手を離し、ベランダから離れて僕を探したのだ。
 予想は的中。あの時と同様、ぴたりと動きが止まった。
 だが、流石に兄貴も成長したのか、それだけでは玄関から足を遠ざけようとしない。
 あと少しだ。あと少し。どうすれば兄貴が家に留まるか。
 考えろ、考えるんだ。
 そうして、見出した僕の答え。言葉にするのはかなり恥ずかしいし、痛いし、切ない。
 が、僕の平穏な学生生活を守るため、恥を捨てて言葉を吐き出す。

「み、右手がこんなんじゃ、箸も持てないし、風呂だって入りにくいだろ。箸はフォークとかで何とかなるけど、でも、ほら、風呂はさ。だから兄貴は同性だし、その、い、一緒に入ってもらいたいなって」
「………一緒に?」
「そ、そう!それに、ええと、べっ、勉強も教えて欲しいんだ。課題が出て、分からないとこもあるから」

 「駄目かな」と続けると、兄貴は静かに振り返った。
 家族以外誰にも見せたことがないような、満面の笑みを浮かべて。

「そんなわけないだろ」
「…………だよね」

 あの時、先生の言葉によって我に帰った兄貴は、人ごみを掻き分けて僕を見つけると、力いっぱい抱きしめてきた。「ひとりにしてごめんな」と、的外れなことを言いながら。それでもこの兄は本当に僕のことを大切に思ってくれているのだと理解することは出来たから、溜息混じりに抱きしめ返した覚えがある。
 しかし、今は。
 絶対に外へ行かせるものかと、押さえ込むために抱きしめ返す。

「あらあら、楽しそうね」
「ねー」

 そんな母と妹の会話に違うんだと言う事が出来たら、どれだけよかっただろうか。
 心の中で一つ、大きな溜息を零した。

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