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晶馬受中心に、掌小説にすらならない指先小説やネタを放置する場所。
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うめ
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女性
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どうしようもない場所から来た何者にもなれない存在。晶馬くんが幸せならいいな!とか言いながら他の人の手を借りて彼を泣かしたりボコったりしている。支部でもちょこちょこ書いてます。呟きは@umeeee02
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無痛症パロの続き。
冠葉が頑張って頑張った、の回。
ネタを一緒に考えてくださったをんさんへ捧げます。

 あの日を境に、俺は晶馬と、そしてこの気持ちと向き合うことに決めた。最初にしたことと言えば、携帯を壊すこと。これで俺の携帯に電話がかかってくることもメールが来ることもない。新しい携帯には晶馬と陽毬と自宅、そして心を許した数名の友人達だけだ。例え登下校時に女子に待ち伏せされて頼み込まれても絶対に教えない。そう決めた。
 次に、晶馬と登下校を共にするようにした。今までは女を連れていたが、女とは全て切る。晶馬の歩幅に合わせて隣を歩き、買い物に付き添う。晶馬は怪我をしてもそれに気付くことができないから、転ばないよう周囲に注意しながら歩く。また、温度調節が出来ないため急ぐことも出来ない。陽毬以外の他の奴が同じことをすればさっさと先に行くが、晶馬相手なら話は違う。寧ろゆっくりと時間をかけて歩けることが嬉しかった。
 そうしているうちに気付いたのは、晶馬は本当に些細なことで笑うのだということだ。重いだろうと手から荷物を奪い取るようにして取った時や、ずれたマフラーを直してやった時。それくらいであいつは笑う。それはとても、嬉しそうに。
 しかし、この想いをぶつけた時の晶馬の表情は、何も無かった。

「冠葉、それはきっと気のせいだよ。それはただの同情だ」

 あれが能面のような顔、というのだろうか。信じられないことに、あの時だけは晶馬の表情から全てが消えたのだ。信じたくないというより、信じられないと言われているような気がした。無理もない。こうしてしまったのは俺だ。晶馬の心を傷つけ、凍らせてしまった。ある一つの感情を眠らせてしまったのは紛れも無く、俺なのだ。だったらそれを解くのも俺だ。その役を誰かに譲るようなことはしない。だから、誰よりも一番晶馬の傍にいて、時を過ごし、少しずつ解いていこう。そう決めた。
 だが、その決意とは裏腹に、心と身体は晶馬を求める。
 晶馬の傍にいればいるほど、愛だの好きだのという感情は増していって、理性を押しのけようとする。
 まだ駄目だ。まだ早い。
 何度も何度も言い聞かせているのに、それはかなりの速さで成長していく。
 晶馬の心はまだこちらに向かない。
 「好きだ」と告げてもそれは兄弟愛だとしか捕らえてくれない。

「僕も好きだよ、兄貴」

 そのポジションは、いらないのだ。



 深夜、まだチラシを見ると言って聞かない晶馬を無理矢理布団の中へ押し込める。風邪を引かせるわけには行かない。眠る前、陽毬にも「晶ちゃんを早めにお布団の中にいれてあげてね」と言われている。こいつも俺も陽毬には弱い。陽毬の名前を出すと、文句を続けようと開けた口を静かに閉じた。
 電気を消し「おやすみ」と交わす。それがいつもの一日の終わりだった。
 しかし、「冠葉」と名前を呼ばれたことで、俺の意識は一瞬で浮上した。

「……何だ」

 ごそりと後ろで晶馬が動いたのが分かった。俺は眠る前、極力晶馬の顔を見えないようにしている。あの無防備な顔を見るだけで、どうにかなってしまいそうだからだ。

「あのさ、最近、僕と一緒にいてくれるだろ。ありがとう」
「当たり前だろ。兄弟なんだから」

 自分で言っておいて心が痛む。兄弟と言うカテゴリだけで済ませられるような感情を、生憎と持ち合わせていない。

「でも、前は違かった。女の子達と一緒だったじゃないか」

 そこを突かれるとぐぅの音も出ない。すると「ふふ」と小さな笑い声が聞こえた。

「笑うな!」
「はいはい、でも、本当に嬉しいよ。最近一緒にいられなかったしね」
「……そうかよ」

 こうも素直に喜ばれてしまうとむず痒い。もしこれで付き合っていたら、恋人同士であったらその場で抱きしめてやれるのに。
 そんなことを思っていると、晶馬が「ねぇ、冠葉」とまた俺を呼んだ。

「何だよ」
「あのさ、もし、冠葉がこないだのことを気にしてて、女の子達と会わないようにしてるなら、いいよ」
「………は?」

 何を言われているのか、全く理解できなかった。

「だから、もういいんだ。怪我も治ってきたし、一人で歩ける。昔みたいに走らないようにもする。荷物がどうしても重たくなっちゃうときは呼ぶしさ。だから、もう冠葉は自由になっていいんだよ」

 「言いたいのはそれだけ。じゃ、おやすみ」晶馬はそう言って、くるりと反対側を向いてしまったらしい。しかし、そんなことを気にする暇など無かった。
 何度も何度も、好きだと言ってきた。恋慕から来ているものだと否定されるたびに言い続け。
 それでも駄目だというので態度でも表した。携帯を壊したのだって晶馬の前だったし、登下校や買い物を共にするだけではない。暇さえあれば晶馬を抱きしめたし、髪や頬にキスも贈った。その度に頬を染め、困ったように「兄貴」と眉を顰めるのだ。
 静かに、ゆっくりと。
 けれど着実に彼の眠りは覚めているものだと信じていた。
 なのに。
 今まで俺が言ってきた言葉は、行動は、晶馬に全く伝わっていなかったのだ。
 絶望・悲しみ・怒り・憎しみ。
 様々な感情が渦巻く。
 俺はもう、押さえ込むことが出来なかった。

 その結果、気付けば俺はいつの間にか、晶馬を組み伏せていた。

「なっ、かんっ、」
「うるせぇ!!」

 隣で陽毬が眠っているのも忘れ怒鳴りつける。
 晶馬は瞳を大きくさせ、わけが分からないとでも言いたげな顔をしていた。
 その顔をしたいのは俺のほうだ。ぐっ、と晶馬の腕を押さえる力を強めた。

「どうして、分かってくれない」

 ぼとりと、目から何かが零れ落ち、晶馬の頬を流れていく。
 まるで泣いているみたいだ、と思いながらも、違うと分かっていた。
 誰の涙だ。
 晶馬ではない。
 だとしたら、これは。
 俺のだ。

「かん、ば」

 晶馬の手が俺の頬を撫でる。その前に自分の頬をどうにかしろと言いたかったが、晶馬は決してそれを拭うことはしなかった。
 「冠葉」俺の名を呼ぶ。

「なあ、頼む。頼むからさ」

 それに呼応するかのように、ぽんぽんと思いが口から溢れていく。

「好きだ、晶馬。お前のことが好きなんだ。愛してる。お前が欲しくてたまらない。大事にしたいのに、出来ないんだ。そのくらい、好きなんだよ」

 俺はそのまま、晶馬の肩口に顔を押し付ける。石鹸や太陽の、温かい春の日差しのような香りだ。
 こんな俺のことでも優しく迎えてくれる、抱きしめてくれる。

 高倉晶馬のにおい。

 ぎゅうっと強く抱きしめる。
 離さないと。決してこれは嘘ではないんだと伝えるために。
 すると、俺の首元が温かくなった。
 晶馬が俺を抱きしめたのだ。
 俺がしているように強く、痛いくらいに。

「ありがとう、冠葉」

 選んでくれて、ありがとう。

 そう告げた晶馬の瞳から流れた涙は、彼の頬を星のように真っ直ぐ伝い、俺の頬に当たって滲み込んだ。

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