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晶馬受中心に、掌小説にすらならない指先小説やネタを放置する場所。
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うめ
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どうしようもない場所から来た何者にもなれない存在。晶馬くんが幸せならいいな!とか言いながら他の人の手を借りて彼を泣かしたりボコったりしている。支部でもちょこちょこ書いてます。呟きは@umeeee02
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逃れの町設定。苦手な方はスルーでお願いします。
陽毬ちゃんは病気じゃないので学校行ってるということで。


 激しい運動は出来ない。体温の調節が出来ないからだ。だから体育の時は大抵、準備や審判をしているか、見学をしているか。つまらないと思うが、仕方が無い。
 以前、両親がまだ家にいた頃、喧嘩をしたことがあった。今思えば本当に些細なことだ。食器を湯の中に浸けていなかったとかそういうこと。約束を守らなかった僕が悪いのに、それまでの規制された生活にうんざりしていたのだろう。反抗して、家を飛び出してしまった。今と同じように息が白くなっていたから、寒かったのだと思う。
 思いっきり走ったのはその日が初めてだった。人がこんなに走れるなんて知らなかった。初めての発見にうかれてしまった僕は、上り坂を一気に駆け上がり、少し離れた公園まで全力疾走してしまったのだ。肩で息をしながら公園のベンチに座って。
 そこから、記憶がない。
 次に目覚めた時は真っ白な天井と、ピ・ピ・ピという機械音、知らない人たち、そして、目元を真っ赤に腫らした家族がいた。母さんと陽毬はぼろぼろ泣いて、冠葉は「ばかやろう」とシーツを握り締め、父さんは険しい顔で僕を見ていた。

「危なかったんだ」
「もう少しで、死んでしまうところだったのよ」

 それ以来、僕は走っていない。小走りすらしていない。しようとすれば両隣から止められる。
 片方は涙を溜めて。
 片方は険しい顔で。
 あの日のことを思い出すかのように。

「へー!二人の学校、明日はマラソン大会なんだ!」

 ジャガイモを皿に取りながら、陽毬は「面白そう!」と声を上げた。どうやら陽毬が通う学校にはそれが無いらしい。以前まではあったようだが、場所の確保が難しくなったようで止めたとか。それに比べうちの学校は私立だからか、敷地が無駄に広い。校内で実施できるのだ。
 陽毬はこう見えてスポーツが大好きだ。テレビを見ながらダンベルを交互に持ち上げたり、腹筋をしたりしている。筋肉が沢山つくのは正直兄からすれば少し悲しい。だけど、「冠ちゃんが女の子と会ってる間は私が晶ちゃんを護るんだから!」とおでこを光らせながら言われてしまえば何も言えなかった。妹に護られる兄というのはかっこ悪いが、恐らくあの時の陽毬の目を、兄貴は真似出来ても僕は絶対出来ないだろう。

「いや、そうでもないぞ。この寒い中走るだけでも苦痛なのに、男だからという理由で距離も距離だからな。全く、面倒だよ」

 そう言って、むぐ、と肉を頬張る兄貴。体育の時はいつも寒そうだもんな、と思い出す。僕はジャージの上にコートを着て、マフラーと手袋、耳当ても許されている。もこもことしているのでかなり動きにくい。腕をさすって震える皆にどれか一つくらいなら、と貸そうとしたのだが駄目だった。兄貴を筆頭に、全員がそれを拒否したのだ。その代わりとして、よくクラスメイトに抱きつかれる。兄貴はしょっちゅうだ。
 寒さも熱さも分からないけれど、彼らに抱きつかれている時は不思議と心が優しくなるのだ。これが温かいというものなのだろう。
 でも、彼らが離れ、校庭を走り回っているとき。
 少しの寂しさを感じるのだ。
 傍に誰もいないからではない。一人が嫌なわけじゃない。
 ただ、あの日を思い出す。
 風景が速く過ぎ去り、足が激しく音を立て、息が荒れた。
 あの、懐かしい時を。

「……晶ちゃん?」

 陽毬の声が、僕をあの日から呼び戻す。はた、と気付いて腕を見れば、二人に掴まれていた。服の皺で分かる。強く握られているらしかった。
 涙を溜めて、険しい顔で。
 今日も、僕を掴んで離さない。

「駄目だよ、晶ちゃん。お願い」
「俺がお前の分まで走ってくる。だから、そんな顔するな」

 どんな顔なのか、僕には分からない。ふと、真っ暗なままのテレビ画面を見つめて理解する。二人が気付いたその訳を。





 テレビの中の僕は、泣きそうな顔をしていた。

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