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晶馬受中心に、掌小説にすらならない指先小説やネタを放置する場所。
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うめ
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性別:
女性
自己紹介:
どうしようもない場所から来た何者にもなれない存在。晶馬くんが幸せならいいな!とか言いながら他の人の手を借りて彼を泣かしたりボコったりしている。支部でもちょこちょこ書いてます。呟きは@umeeee02
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運命や遺伝子に逆らうものが本当に人なのだろうか。

もしも晶馬が桃果のような力を得たら。
ついったで呟いただけでは足らず、ちょっと書いてみました。
反省はしている。だが後悔はしていない。
冠晶というよりも高倉家って感じです。
シリアスしかない。

 朝目覚めたら隣に晶馬がいなかった。今日は休日で学校は休みだ。きっと買い物へ行ったのだろう。そう思って特に気にせず、顔を洗ってさっぱりしてから冷蔵庫から適当なものを取り出し食べる。歯を磨き、着替えて今日は「仕事」の日だと携帯のアドレス帳を開いた。
 ところが不思議なことに、仕事関連のアドレスが全て消えている。どこを探しても履歴にさえ見当たらない。一体どうしたというのだ。まさかバグか、と焦っている最中、携帯が震えた。着信だ。画面に出た名前を見て驚く。
 夏目真砂子。
 まさか彼女が何かしたのか。問い詰めようと通話ボタンを押し「おい、どういうことだ」と声を荒げる。しかし、そんな俺の言葉を聞かなかったかのように「マリオさんが」と言ってきた。

「マリオさんが、元気になりましたの」
「はぁ!?」

 マリオとは彼女の弟で、陽毬と同じく帽子に操られる存在であり、あの薬がなければ生きられない。それが元気になったと言う。何故、そうなったのか。

「詳しいことは全く分かりません。朝目覚めたらあの医者から電話がかかってきて、もう君の弟は薬はいらないね、と。まさかと思って慌ててあの子の部屋に行くと、帽子が消えていて、元気に」
「っ、何でお前らだけが!」

 思わず飛び出してしまった本音。
 何故こちらには電話がかかってこない。どうして陽毬はあの白い部屋で今も眠っているのに、あちらだけが救われたのか。これが俺たちの罰なのか、それでも。何故、何故、何故という言葉が頭を占める中、家の電話のベルが音を立てた。
 もしかして、と淡い期待を抱き、夏目との通話を切る。何か言われたような気もするが、そんなことはどうでもいい。「もしもし」と慌てて出ると、奴は言った。

「やあ、おはよう。ところで君の妹さんだけど、もう薬はいらないみたいだよ」

 その台詞を聞いた瞬間、受話器をそのままに急いで家から飛び出した。行き先は勿論病院だ。愛する妹の下に、陽毬の下に。
 机に置かれたままの受話器の向こうで、彼が笑っていたのを知らず。





「陽毬!」
「冠ちゃん!!」

 受付の者に陽毬の居場所を聞き、そこへ行くと、室内着ではなく、彼女のお気に入りの真っ青なスカートを着ている彼女を見つけた。病院内は走るべきではないと分かっているが、じっとしてなどいられない。周りの目など気にせず、駆け寄って抱きしめた。
 生きている証拠のこの温かさ、柔らかさ。そして、自分を抱きしめ返してくるこの力強さ。
 ああ、これは現実だ。夢なんかじゃない。
 喜びのあまり涙が出そうになった。喉の奥も熱い。この世に生まれてから今まで感じてきた喜びの中で、最大のものだ。今なら世界の平和だって願うことが出来る。

「痛いよ冠ちゃん」

 無意識のうちに抱きしめる強さを増してしまっていたらしい。慌てて陽毬から手を離すと「もう」と仕方なさそうに笑った。

「でもどうしていきなり……何かあったのか?」
「ううん、よく分からない。先生がね、今日から君は薬を飲まなくても大丈夫だよ。健康体だって」
「そうか……」

 一体何が起きたのかは分からない。だが、陽毬は笑っている。彼はああ見えても医者だ。まさかこんな嘘までは吐かないだろう。
 彼女が元気でいてくれるなら、それでいい。
 もう一度、今度は優しく抱きしめよう。そう腕を伸ばそうとした時だった。

「やあ、早かったね」

 向こうから渡瀬があの笑みをたたえながら歩いてきた。
 普段通り、後ろに少年二人を引き連れて。
 そして彼は続けた。

「君たちに見せたいものがあるんだ」





 渡瀬に連れてこられたのは集中治療室。何故こんなところにと中へ足を踏み入れると、そこには信じられない光景が広がっていた。

「……しょ、うま」

 朝から姿を見ていない弟が、そこで静かに眠っていた。
 機械音が騒々しい。看護師が点滴を変えている。包帯が、ガーゼが、名前も知らない器具が晶馬の体に纏わりついている。
 あの日、晶馬が車に撥ねられた時なんか比べ物にならないほど、彼の体はぼろぼろだった。

「――――っ!!」

 後から入ってきた陽毬は声の無い悲鳴をあげ、晶馬が横たわるベッドの傍に駆け寄り、「晶ちゃん、晶ちゃん」と何度も弟の名を呼んでいた。 しかし、晶馬は眠ったままだ。

「……どういうことだ」
「どういうことって、今朝運び込まれたんだよ」
「違う!俺が言いたいのは、どうして晶馬がこんな目にあっているんだということだ!お前が何かしたのか!?」

 渡瀬の胸倉を掴み、奴を睨みつける。しかしそんなことで動じるような人間ではない。しー、っと口元に一本指を立てて「お静かに」と注意をしてきた。その動作がますます俺を苛立たせ、咄嗟に奴を殴ろうと腕を振り上げる。その腕を、いつの間にか傍に来ていた陽毬が掴んだ。

「駄目だよ冠ちゃん!」
「っ!」

 泣きそうな顔をしている。きっとあんな晶馬を見て涙を流したいのを我慢しているのだろう。それを見てなんとか怒りを押さえ込み、奴から手を離した。
 すると渡瀬は何事も無かったかのように、平然と襟元を正す。

「全く、そう睨まないでくれるかな」
「言えよ、晶馬に何をした」
「何って、治療しかしてないけど?ねぇ?」

 渡瀬に同意を求められた少年達は、にっこりと頷く。

「そうです!渡瀬先生は彼を救いました!」
「素晴らしい技術力です!」
「だよねぇ」

 しかし、そんな言葉を信じられるわけがない。それが顔に出たのだろう。俺を見て「やれやれ」と首を振り、困ったように笑った。

「じゃあ教えてあげよう。彼はね、君の罰と君の罪を受け入れたんだ」

 君の罰、と言ったとき渡瀬は俺を見、君の罪と言ったときには陽毬を見た。

「……どういう」
「簡単な話さ。彼は運命を変えたんだ。彼に与えられた、新たな力によって」
「新たな力……」

 一つだけ、思い当たるものがあった。それは、あの日記、ピングドラムと呼ばれるものだ。だが、あれは夏目と時籠が半分ずつ所有していたはず。それを晶馬に渡すなんて到底思えなかった。

「高倉冠葉、君は罪を重ねすぎ、高倉陽毬、君は罰を受けすぎた。だが高倉晶馬は君たちほど罪も罰も与えられていなかった。彼はそれが不服だったんだろう。君たちを救う一つの可能性を示したら、すぐに彼は受け入れたよ」
「やっぱりお前が!」
「言っただろう、可能性を示しただけだって。その方法までは教えていないよ。つまり彼は自ら行動し、その方法を知り、力を得た。全ては君たちを思っての行動なんだよ」
「俺たち、を」
「そう。そして君たちに関わった者たちも」

 夏目の弟が元気になったのも、晶馬が全てを受け入れた結果だということか。
 そんな、馬鹿な。
 晶馬を見つめる。自分の力で呼吸することすら出来なくなるまでに傷つき、それでも懸命に生きようとしている。
 懸命に、罪と罰を受け入れている。
 陽毬はピングドラムを知らない。どうやって晶馬が傷ついていたのかは分からないだろう。だが、今の話で俺と自分を救うためにこうなったことは分かったらしい。先ほどまで溜めていた涙を流し、それを拭うことなく渡瀬に尋ねた。

「晶ちゃんは、元気になるんですか」
「勿論、死なせはしないよ」
「本当に?」
「ああ。ただ、彼はきっと今までどおりの生活は出来ないだろうね」
「どういう、ことですか」

 その問いに対し、渡瀬は一層笑みを深くして言う。

「彼はこの先、運命を変え続ける」

 即ち、それは。

「近いうちに、また此処に来ることになるだろうね」

 晶馬が永遠に、運命に囚われることを意味している。
 そしてまた、俺たちも。そんな晶馬の傍にいることしか出来ない歯がゆさに、永遠に打ちひしがれるのだろう。
 運命に逆らい続ける晶馬と、そんな晶馬を見ていることしか出来ない俺たち。
 そこに幸せはあるのだろうか。
 そこに許しはあるのだろうか。
 瞳から、何か生ぬるいものが頬を伝っていくのを感じた。

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