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晶馬受中心に、掌小説にすらならない指先小説やネタを放置する場所。
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うめ
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女性
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どうしようもない場所から来た何者にもなれない存在。晶馬くんが幸せならいいな!とか言いながら他の人の手を借りて彼を泣かしたりボコったりしている。支部でもちょこちょこ書いてます。呟きは@umeeee02
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以前書いた美容師パロ設定のお話です。社会人×高校生。
晶馬に呼び捨てさせたい冠葉と、冠葉に嫉妬されて喜ぶ晶馬。

 恋人になって、彼がキスして抱きしめてくれるようになって。ああ、これが幸せというものなのかなと思っていた矢先、これだ。
 彼の前で山下のことを、洋兄と呼んでしまったのだ。
 山下とは家(というかマンションなので部屋)が近くということもあって幼馴染である。昔からよく彼にも彼の御両親にも大変世話になった。幼い頃は山下のことを洋兄と呼んでいたものだ。それを小学校の時のクラスメイトに馬鹿にされて以来、洋兄を卒業し山下と呼ぶようにしたのだが、焦った時や怒った時などはすぐ戻ってしまう。それが今回、出てしまった。
 僕の手を掴み、先を歩く彼を見つめる。
 掴まれた手が白くなっている。痛い。
 彼が怒っていることは分かっているのだが、愚かなことに、彼に手を握られているという事実によって握られた箇所以外は赤く染まっていた。

「あ、あの、冠葉さん」

 「どうしたんですか」と続けようとしたのだが、腕を強く引かれ、近くの壁に押し付けられてしまったので言えなかった。通せんぼをするように、彼の両腕が顔の隣にある。ぎらりと鈍く輝いた瞳が目の前にあって、視線を逸らしたくともその強さゆえに逸らせない。こんな至近距離でドキドキする。怖いとかそういうものではなく、羞恥で。心臓が普段以上に強く鳴り響くのを感じた。
 苛立ちを顕に、彼は言う。

「俺のことは名前で呼ばないのに、あいつは呼ぶのか」
「え……?」
「山下だ。さっき、洋兄って呼んでただろ」
「あ」

 そう言えばあれを聞かれてしまっていたのだ。顔の火照りが一瞬で消え、青くなっていくのを感じた。
 あんな子どもらしいところを見られてしまって、もしかしたら嫌われてしまったかもしれない。だって彼は僕より大人で、社会人で、格好良くて、何でも出来る。そんな彼を、折角こんな凄い人を愛すことを許されたというのに。
 出会った頃から何も変わらない子どもだと、思われてしまったのだろうか。

「……晶馬?」

 何も言わなくなった僕を心配してくれたらしい。顔を覗き込んできた。

「ご、ごめんなさい」
「……それは何に対してだ」
「僕、その……お、大人に、なれなくて」

 「だから、ごめんなさい」ともう一度謝れば、彼は少し首を捻った。そしてしばらく考え、一つの結論に至ったらしい。大きな溜息を零した。それにびくりと身体を揺らし、視線を逸らす。すると、今まで壁についていた手が離れ、代わりにそれらは僕の頬へと触れた。ぐいっと引き寄せられ、無理矢理視線を重ねられる。その視線は近距離ながらも真っ直ぐに僕を射抜き、離さない。

「俺は別に、洋兄っていう呼び方が子どもっぽいから怒ったわけじゃない」

 吐息が、唇に触れる。その温かさにどくりと、心臓が悲鳴をあげた。

「そ、そうなんですか?」

 動揺が悟られないよう、気をつけて話す。声が少し上擦ってしまったのは許容範囲だろう。
 しかし、彼はちっと舌打ちをして僕を睨んだ。

「それだ」
「え?」
「俺とお前は恋人同士だろ。なのに何故敬語で、名前も呼び捨てにしてくれないんだ。山下のことはそうやって親しげに呼ぶのに」
「あ……」

 それはずっと言われていたことだった。恋人になった日から、ずっと。言われた時は特別な存在になれたのだと嬉しかった。
 だが、どうしても慣れることが出来ない。癖になってしまったものはなかなか直せないというのを改めて実感した。何より恥ずかしさもあって、僕は未だに冠葉さんのことを冠葉と呼び捨てにすることが出来ていなかった。彼は「タメ口でいいし呼び捨てで良い」と言ってくれるのだけど、やはり年上だし、そもそも僕が最初に彼に抱いた感情は憧れだったのでなかなかそれが出来ない。家では鏡に向かって、携帯の待ち受けに向かって何度も練習しているのに、いざ本人を目の前にしてしまうと緊張してしまって言えないのだ。
 しかし、山下は違う。昔からそっちの、タメ口で呼び捨てというのが慣れてしまっていて、そちらの方が出てきてしまう。
 まさか、この人は。

「……嫉妬」
「は?」
「嫉妬、してくれてたんですか」

 そんなことあるわけない、と思いながらも問いかける。すると、彼は眉を顰めて「当然だろ」とさも当たり前のことのように言ってくれた。
 急激に、顔へ血液が上ってくる。感動とか感激とか歓喜とか、そんな言葉じゃ言い表せないくらいの衝動が心の中を暴れまわる。

「う、」
「う?」
「嬉しい、です」
「……今更だな」

 彼は溜息混じりにそう言って、僕の鼻に噛り付いた。痛い。

「ふえ」
「今度俺に敬語を使ったらもっと強く噛むからな。あと」

 「ここも」と唇を甘く噛まれて、僕は「ぴやっ!」という変な声を上げてしまった。
 それ以来、なるべく彼を冠葉と呼ぶようにしている。

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