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晶馬受中心に、掌小説にすらならない指先小説やネタを放置する場所。
プロフィール
HN:
うめ
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性別:
女性
自己紹介:
どうしようもない場所から来た何者にもなれない存在。晶馬くんが幸せならいいな!とか言いながら他の人の手を借りて彼を泣かしたりボコったりしている。支部でもちょこちょこ書いてます。呟きは@umeeee02
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卵1の続きです。
何だかぶらこん!くらいに人気が出ていてとても吃驚しております。超緊張。期待はしないでどうぞ、鼻で笑いながら読んでやってくださいね!

 出した条件は二つだ。
 一つは話し合いの場を晶馬本人が作ること。簡単な話だ。男につきまとわれているのは晶馬であって、俺ではない。俺が相手の下へ行ったところで、逆上させてしまうのがオチだ。だから、せめて場だけでも晶馬が作らなくてはならない。
 男に話がしたいと言う。今まで無視をされ逃げられていた男はきっとのってくる。そして話し合う場所と日時を決め、携帯のメールアドレスだけを交換しておく。番号は、と言った晶馬に、それだけは絶対に渡すなと何度も言い聞かせた。電話番号は変えるのが手間だからだ。そして、当日前夜に、風邪を引いて寝込んでしまったと嘘を吐き、代理として友人を向かわせるとメールする。違う日でもと言われたら、それ以外は無理だと返せばいい。あくまでも、こちらが上だ。
 そう、二つ目の条件とは、俺を友人とすることである。家族を出すことで男の逆鱗に触れるかもしれない。そうなると、晶馬の身が危なくなる。俺がそう言うと、晶馬は「分かった」と大きく頷いた。その後に「兄貴も危なくなるもんな」と拳を握り締めて。
 そして翌日、晶馬は俺の言った通り、男と約束を交わしてきた。少し疲労した様子だったが、抱きしめてやると安心したように息を吐き、耳元で「ごめん、おねがい」と呟かれる。言われなくともそうするさ。返事の代わりに、さらに強く抱きしめた。



 俺は今、とあるファミレスにいる。その向かいには男がいて、コーヒーを啜っている。俺たちの周りには誰もいない。少し遠くにある厨房の方から、笑い声が聞こえてきた。
 金に近い髪をしている。第一印象はそれだった。実物は見たことはないが、砂漠で枯れている植物の根はこうなのだろう。恐らく、いや、絶対黒髪の方が似合っている。確信があった。
 耳には二つずつ、ピアスをしている。男が動くと煌いた。ピアスというものを見ると、中学生の時、前に座っていた奴が突然まち針で耳を貫いたことを思い出す。それは別に構わないのだが、それを見た晶馬が冗談半分で穴を開けたいと言ったときは反対した。もし本気で開けたいと言っていたならば、殴ってでも止めようとしただろう。
 あの晶馬の身体に傷をつけるのは、例え晶馬自身であろうとも許さない。
 俺以外の、何者も。

「小さい頃からずっと友達なんです」
「聞いたよ」

 男は音を立ててカップを置いた。背もたれに従って、ずるずると少しずつ下がっていく。

「不服そうですね」

 カップを持ち上げる。安物の割には良い香りだ。堪能していると、それに紛れてシトラス系の香りがツンと鼻孔を突き抜けてきた。思わず眉を顰める。男が急に大きく体を動かしたのだ。下の方にあったはずの男の顔は、いつの間にか元の位置に戻っていた。

「当たり前だろ」

 一度だけ言えばいいものを、男はもう一度「当たり前だ」と繰り返した。そして男はテーブルの上で手を組んで、その上に額を乗せた。男の顔が見えなくなる。代わりに、頭の頂点が見えた。根元の方が黒い。それを見ながらコーヒーを飲んだ。酸味が効いたそれが口内を潤す。晶馬ならこれを口にした途端、「うえ」と顔を歪めてよくもこんなものが飲めると言わんばかりに睨みつけてくるだろう。
 店内にはゆったりとしたクラシックが流れている。よくCMで使われる有名なものだ。飲みながら曲名を思い出そうとした。が、それを、男の声が邪魔をした。

「彼の風邪はそんなに酷いのか」

 音を立てないようにゆっくりカップを置く。俺は少し悩んでから、「ええ」と答えた。

「この寒い中、きちんと布団をかけないで寝たそうで。腹も壊すし熱も出すしで大変みたいですよ。とても申し訳なさそうにしていました。俺にも、あなたにも」
「……そうか」

 彼の額が手から離れる。伸びた前髪の間から覗く黒が、はっきりと見えた。しかし、それは俺を映していない。その視線は自身の手に注がれている。俺もその手を見つめた。男の左手の薬指にシルバーリングを見つける。鎖の模様が施されているようだ。少しごつい男の手には、とてもよく似合っていた。

「俺は、彼女を……いや、彼を。ずっと、探してたんだ。約束通り、ずっと」

 男の目は、まだ手に向けられている。俺は黙って男の話を聞いた。

「そしてようやく見つけた。驚いたよ。まさかこんなに近くにいたなんて。全然変わってないんだ、あの笑顔。声も、同じなんだ。ただ、性別だけは違ったけどさ。でもそんなものどうでもいい。関係ないんだ」

 男の目が細くなった。瞳に少しの輝きが見える。手が邪魔で口元は見えないが、恐らく笑っているだろう。声音も先程よりか穏やかだ。

「神に感謝したよ。絶対にいないと思っていたけど、実在したんだ。こうして願いを叶えてくれたんだもんな。あの頃叶わなかった幸福を、この世で実現できると思った。とても嬉しかったよ。一生分の運を使った感じがしたけど」

 しかし、次の瞬間、男の指先が白くなった。第一関節が曲がって、爪が手の甲に食い込んでいる。目の輝きは消えていた。
 「でも、彼女は、彼は」発せられた声も先程よりさらに低くなり、強い口調に変わっていく。

「俺を抱きしめてはくれなかったんだ!」

 男の手が拳となって、テーブルの上に落とされた。ダンッという音が響く。その衝撃で、コーヒーがそれぞれのカップの中で激しく揺れた。少し零れて、テーブルを濡らす。俺は男に気付かれないよう、静かに周囲を見渡した。レジの近くに二人の店員がいるのが見えたが、こちらを見ていない。話し込んでいるようだった。たった一人、窓側の席に座っていたパンツスーツを着た女性だけがこちらを見ていた。少し笑み、頭を下げる。すると彼女は頬を染め、慌てて視線を逸らした。そして何事も見なかったかのように、自分のカップに口つけていた。
 視線を自分のテーブルに戻す。揺れていたカップの中身はもう、静けさを取り戻していた。コーヒーは飛び散ったままだ。カップから少し離れた場所に置かれたどちらの拳も、親指は四本の指につつまれていた。視線を上げて男を見る。俯いていて表情までは窺えないが、横に広がった唇から覗く歯はきつく閉ざされていた。
 ふと、ポケットの中に入れてあった携帯電話の存在を思い出した。音が立たぬよう取り出すと、ちかちかとライトが光っていた。バイブレーション設定を解除しておいたのだ。テーブルの下でそっと開く。メールは二件着ていた。そのうち一件を開いてみると顔も忘れた女からで、すぐに消去した。残るもう一件は晶馬からで、内容は俺の身を案じているものだった。胸の奥にこみ上げてくる感情に酔う。それを何とか抑え、大丈夫だと返信して、待受画面に戻した。時間を見れば、もう二十分は経っている。携帯を閉じて、ポケットに戻す。

「あいつから聞いたんですけど」

 ぴく、と男の体が動いた。

「覚えてないとか、思い出せとか言われたと。でも、あいつは全然分からないみたいなんです。何の話なのか、分からないって」

 ゆっくりと顔が上げられる。そして初めて、男はようやく俺を見た。視線が重なった時、俺は口角を上げ、目を細めた。

「だから、話してくれませんか?俺はあいつの代理として、ここに来たんです」

 すると、男の目がうろうろと動き出した。俺はそれを黙って見ていた。
 ふと、男の左目の下に小さな黒子を見つけた。泣き黒子だ。初めて実物を見て、思わず出しそうになった声を呑み込んだ。

「分かった」

 その言葉と共に拳が解かれ、手はテーブルの下にある男の膝の上に消えた。俺は黒子から意識を戻す。

「お前は彼の代理人だ。だから、俺が言ったことをきちんと彼に伝えるのが役目だ。そうだな?」
「ええ、もちろん」

 男はしばらく俺を見ていたが、やがて大きな溜息を一つ零した。そしてカップを持ち上げて、中に入っていたコーヒーを呷った。喉仏が大きく動いている。ガチャ、と音を立ててカップは皿に戻された。五秒も経たない間だった。

「俺は昔から、変な夢を見てきた」

 そうして、男は語り出した。

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