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晶馬受中心に、掌小説にすらならない指先小説やネタを放置する場所。
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うめ
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どうしようもない場所から来た何者にもなれない存在。晶馬くんが幸せならいいな!とか言いながら他の人の手を借りて彼を泣かしたりボコったりしている。支部でもちょこちょこ書いてます。呟きは@umeeee02
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お久しぶりです。パソコンつけるのも超久しぶり。
楽しみにしていた幻想水滸伝とかやっていたらネット離れを……
さて、お待たせしました。卵の3です。次で終わります。

 男は幼い頃から変な夢を見ていた。毎日見るわけではないが、いつ、どういう時に見ることが出来るのか、法則性もない。一ヶ月に一度だけの日もあれば、一週間に二度見る日もある。二ヶ月間見ないときもあった。昼寝の時に見ることもあるし、昼夜続けて見ることもある。そしてそれは、今でも続いているのだと言う。

「どんな夢なんです?」

 そう尋ねると、男は空になったカップを見つめた。唇を口の中へ引っ込めたり、戻したりを繰り返している。次第にまた、目があちらこちらに動き始めた。「どんな夢なんです?」もう一度、今度は先程よりも強く尋ねた。

「過去の、前世の夢だ」

 観念して発せられたそれに「そうですか」と返す。すると、男は勢いよく顔を上げた。その目は大きく見開かれている。驚かないのか、信じるのか。男の目が訴えている。まったく、すぐ顔に出る男だ。

「驚きはしましたけど、そういう話ってよくありますよね。テレビにもそういう人たち結構出てますし。それに、こんなときに嘘言って一体何のためになるんです?少なくとも、あなたのためにはなりませんよね。だから信じたんです」
「そ、そうか」

 そう言って、男は少し肩を落とした。安堵しているようだった。
 男は続けた。
 前世、といってもそんな昔のことではないらしい。ただ、例えば二人で昼食を食べている時のことだったり、水族館へ行った時のことだったりと、夢はあまりに断片的で、はっきりとした時代は分からないそうだ。

「夢は大体二つに分かれるだろ。一つは夢の中で起こる事を客観的に見ているだけってやつ。もう一つは自分がその物事を体験する、夢の中の奴と一心同体になって見るやつ。この夢は後者でさ。夢の中で俺はマコトっつーんだ」

 マコト。小学校の時のクラスメイトに一人いた。クラスの中で二番目くらいに足が速い奴だった。一番は勿論俺だ。あいつは私立の中学校へ行ってしまったからそれっきりだが、元気でやっているだろうか。
 「聞いてるのかよ」男の声で我に返る。「勿論」と何事も無いように微笑むと、男は何も疑わなかった。
 見る夢の大半は、病院でのことだという。マコトが入院しているわけではない。マコトの幼馴染が入院しているのだ。
 彼女の名前は佐藤美和。漢字までしっかりと覚えているのは、彼女の病室のネームプレートを何度も目にしているから、らしい。
 たった一つしか名前がないネームプレートを見てから、三度ノックをする。返事がしたら扉を開けて中に入る。それがマコトの癖であり、且つ自分だということを彼女に教える仕草の一つでもあった。開けた先で、美和はベッドに横になりながら「いらっしゃい」と声をかける。時に優しく、時に辛そうに。どんな体調であれ、必ず返事があった。

「マコトは美和のことが好きだったんだ」

 男はどこか、遠いところを見ているようだ。どこか遠くの、そこにいる誰かに笑んでいる。今、男の瞳の中に俺はいない。だというのに、眼球には俺が映っている。それがとても面白かった。「そうなんですか」と、何度か頷いた。

「ああ。だから、マコトは何度も愛の告白をしようとした。けど、それが空気で伝わるんだろうな。その度に言葉を遮られ、違う話に変えられるんだ」

 拒んでいるのだと、何度目かの挑戦のときになってようやく気付いたという。理由は簡単、自分がもうすぐ死んでしまう身だったからだ。
 美和は不治の病に犯されていた。理由は分からない。ある日突然倒れて救急車で運ばれ、着いた先の病院で医者にそう告げられた。それを知った時、彼女に隠れてマコトは泣いた。どうして彼女が、と何度も思った。けれどその本人である美和はただ、「そうですか」と唇を噛み締めただけ。彼女はそれから、死ぬまで笑うことはあっても、泣くことは決してなかった。
 そして、美和は死んでしまった。彼女は結局一度たりとも、マコトに告白をさせてはくれなかった。彼女のいない人生に意味はない。マコトは何度もカッターを腕に滑らせ、何度も駅のホームから落ちた。しかし、どんな手を使っても、死ぬことはできなかった。そんな時、美和の両親から一冊のノートを受け取った。
 表紙にはタツノオトシゴが描かれていた。中を開くと、真っ白なページは見慣れた字で埋め尽くされていた。ページの左上には日付が書かれている。
 それは、美和の日記帳だった。一日一ページ、上から下まで、その日起きた出来事が事細かに書かれていた。
 一枚一枚読んでは丁寧に捲っていく。美和の視点で書かれたそこには、必ずマコトがいた。面白い漫画を貸してくれたとか、くしゃみを何度したとか、どうでもいいことまで書かれている。持ってきた花の数と、その花言葉まで調べられ、書かれていた。
 いつも美和はマコトを見てくれていた。
 そうして全てを読み終えて、最後のページを開いた時。彼はとても驚いた。「マコトへ」と、一番上に書かれてあったのだ。そこにはこう書かれていた。

 来世でも私は私で、あなたはあなたで。そうしてまた出会って、今度はずっと一緒にいたい。ただそれだけを願っています。

 話の途中、俺は何度か欠伸をかみ殺した。そのせいで涙目になってしまって、だんだんと視界がぼやけてくる。目尻に溜まった水分を指で払った。シャツで指を拭く。男に視線を戻すと、勘違いをしたようだ。ちらっと、備え付けのペーパータオルを見た。それに心中で苦笑する。

「あの子は、美和にそっくりなんだ。顔も声も、生き写しさ」
「それであいつが美和さんの生まれ変わりだと?姿が一緒だから?ただ、それだけで?」

 「そうだ」男は大きく頷いた。

「日記にあった、私は私でっていうのは、彼女の姿のままってことなんだ、きっと。あの愛らしさは間違いなく彼女だ。男だろうが関係ない。彼は彼女だ」
「じゃああなたも、マコトさんと同じ容姿ってことになりますね」
「ああ、そうだよ。何も変わってないさ」

 自信満々に返ってきた言葉に、俺は溜息をついた。男に気付かれないよう、そっと、小さく。
 男は全く気付いていない。俺の瞳に映る感情を気付かないまま、喋り続けている。

「でもおかしなことに、彼女……いや、彼には記憶だけないんだ。俺を覚えていないなんて、ありえない。だから思ったんだ。もうこの際、付き合いながら記憶を引き出していけばいいんじゃないかって。だから、なあ、頼む。お願いだ。あんたあの子の友達だろ。絶対に彼を幸せにしてみせる。だから、手伝ってくれないか」

 「この通りだ」と彼は頭を下げた。両手を机について、額をテーブルに押し付け俺の答えを待っている。視線を男から外し、外を見た。真っ青だったはずの空に、朱色が雑じり始めていた。電灯も点いている。これからこのファミレスはにぎわうのだろう。気付けばパンツスーツの女性は消え、代わりにサラリーマンが座っていた。
 頃合いだ。俺は視線を男に戻す。未だそのままの格好でじっと待っていた。

「いいですよ」

 その言葉に、男はぱっと顔をあげた。最初は唖然としていたものの、段々男の頬は赤くなっていった。そして笑みが溢れ、「そっか、そっか」と何度も呟いていた。「ありがとう、ありがとう」男は何度も俺に礼を言って、手を握った。男の手は、俺の手をすっぽりとつつんでしまうくらいに大きい。そして温かかった。ただ、左手の薬指が当たった箇所だけはとても冷たい。

「それじゃあ、俺は帰ります」

 するりと男の手から逃れて、脇に置いてあった黒のコートを羽織る。晶馬に強請って作ってもらった青のマフラーを巻いて、ポケットから財布を取り出した。伝票を見ようと手を伸ばすと、届く寸前で男がそれを奪った。「俺が払うよ」男は笑顔で言った。「どうも」俺も笑顔を返す。

「ああ、そうだ」

 立ち上がりながら言う。男は深緑色のダウンジャケットに袖を通しながら俺を見上げた。

「あいつ、実は双子なんですよ」

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